子を思う母の思い 

毎日欠かさず見ている お悔やみ欄

それは、かっての利用者さん達の名前を見ることがあるからです。

その日も いつものように朝刊に目を通していると

一人のおばあさんの名前をみつけました。

このおばあさん 10年以上前に私がリハビリをしていた方です。

ご主人を亡くし、長男を見送り

絶望の果てで生き続けたおばあさん

やがてその身も 癌に侵され 私の元を去られました。

別れ際 おばあさんが瞼いっぱいに涙を浮かべて私に話されました。

「せんせい 息子が 息子が・・」

嗚咽ともいえる 小さな叫び

「息子さんって 亡くなられた息子さんですか?」

「はい・・・お骨がないんです・・・」

「えっ!お骨がないって、どういうこと?」

「嫁が いつのまにかお墓から持って行ったんです」

背筋の寒くなるようなお話。

子を思う母の思い 父を思う子供たちの思い

父を亡くした子供たちの思いをとげるためにしたお嫁さんの行動は

今から癌と闘うおばあさんには

あまりにもむごい仕打ちでした。

それでもおばあさんは気を取り直すように 言われます。

「あの子たちが それで幸せなら わたしゃ いいわ。

写真に参ってるから」と。

そういって 私の元から去って行かれました。

あれから5年 おばあさんは癌と闘い 生き続けたのです。

 

今は ご主人の隣で

来るはずのない息子さんに 話しかけているのでしょうか。

 

忘れかけた名前を新聞で見つけ

蘇った おばあさんとの会話

あの時のおばあさんの涙が

私の耳元をそっと流れていきました。



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