血のつながりはなくても戸籍以上の親子
「ありがとうごうざいます」
丁寧に一礼して、その方はおじいさんの車椅子を押して行かれました。
ごく当たり前の 親子の後ろ姿。
しかし、このお二人は違うのです。
子供のいなかったジロウさんは
自分たちが子供がいない分
明るい子供に囲まれているお兄さん夫婦が
羨ましくて たまりませんでした。
しかし その寂しさを口に出す事も出来ず
ただ、暇を見つけては
何食わぬ顔で、お兄さんの家に 夫婦で遊びに行き
甥っ子達と 他愛もない時間を過ごしながら
その寂しさを紛らわしていたのです。
やがて ジロウさん夫婦も 年をとり
寂しさと不安がのしかかり
とうとう ジロウさん達は お兄さんに 頭を下げたのです。
「○○を養子に欲しい」と
この瞬間
ふたつの家庭には
私が想像出来ない位 色々な事が渦巻き
共に葛藤し、そして 覚悟したのでしょう。
月日が流れ ジロウさんと共に歩んだ奥さんは亡くなりました。
一人ぼっちになりかけたジロウさんを
いつも支えていたのは
養子となった甥っ子さんでした。
ジロウさんは この時
あらためて お兄さんに感謝し
甥っ子さんに感謝したのです。
「今日は 父の診察日なので 早めに連れていきますね。」
何気ない会話と 優しい笑顔
「お父様は 初めは寡黙な方かと思ったのですが
お話すると 色々な事を話して下さるんです」
私が 普段のジロウさんの様子を その息子さんに話すと
「そうなんです。
実は、父は とても話し好きなんです」
照れながら 返して下さる 初老の男性
親子のつながりは
戸籍以上に強いものがあるのだと
この親子を見て 思いました。
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