認知症でも、自分が悪者になって入院した母

認知症でも、自分が悪者になって入院した母

今日は、突然歩けなくなった
おばあちゃんの お話をしましょう。

スミコおばあちゃんのご夫婦は 子供がいなかったため
今の娘さんを 養女にして 育ててきました。

ごく自然な 仲の良い親子です。
だから 私達は何も疑う事はありませんでした。

 

お喋りが大好きな とても元気なスミコおばあちゃんですが
ご主人が亡くなってからは 物忘れが進み
一人で暮らせなくなりました。

そのため 離れて暮らしていた娘さんの所で
同居することになったのです。

 

実は この時のサービス担当者会議で
初めて ご自分が養女であること
血がつながってないことを
娘さんは 自ら話されたのです。

でも、正直なところ 私は 血のつながりなんて
関係ないと思うのです。

だって 血のつながりのない嫁と姑でも
一緒に暮らし 精一杯お世話している人は
沢山いるのですから。

 

「変なこと言う人だな~。何言いたいんだろう」
と思いながら 聞いていました。

そして、この同居が始まってから
スミコおばあちゃんと娘さんの関係が こじれてきたのです。

 

毎日のように 娘さんから
「着替えをしない」
「部屋がちらかている」
「同じことばかり言う」と
生活の異様ぶりを デイケアに訴えて来るようになったのです。

でも デイケアでは 特に問題行動はなく、
いまひとつ理解できませんでした。

 

そんなある日
元気に「さよなら」と言って帰っていったおばあちゃんが
その日の内に娘さんに連れられて
診察に来たのです。

 

外来からの連絡で見に行くと
おばあちゃん ショボンとして車椅子に座っていました。

「どうしたのですか」と聞くと
「先生!突然歩けなくなったんです。足が出ないんです」
と おばあちゃん 訴えてきます。

「まさか! さっきまで 歩いていたじゃないですか。」
「でも 歩けないんです。」

結局 おばあちゃんはそのまま入院したのですが
実際 どこも悪くないのです。精神的なものだったのです。

入院して 気持ちが落ち着き
おばあちゃんは 歩けるようになりました。

とっても 喜んだのですが
退院しても 娘さんのところには戻りませんでした。
そのまま施設に入所したのです。

暗黙の了解で 決まったこの結末に
私は 合点がいきませんでした。

だって 今まで どの人も 戻る場所があるのに
入所する時は みんな 泣いたり 悔やんだりしていたからです。

なぜ スミコおばあちゃんは
あっさり了解したのかと。

それから しばらくして 思ったのです。
もしかしたら 歩けなくなったのは
自分から娘さんを解放するための
無意識にした 行動だったのではないかと。

 

スミコおばあちゃんは
いつも娘さんを 自慢をしていました。

子供のいない おばあちゃんにとって
養女にした娘さんは 宝物だったのでしょう。

宝物は 少し離れたところから 見ているのが
一番いいのかもしれません。

きっと「いい思い出だけ」を 持ち続けて
ずっと 大切にしたかったのでしょう。

だから 自分が身を引いたのかもしれないと。

 

自分が悪者になって。
それが 親心なんですね。

たとえ血がつながっていなくても
たとえ認知症になっても
娘を思う気持ちは 無限であり、偉大なんだと。



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