笑顔の向こう側

肺癌を患い　片肺で元気に生活しているハツさん

おんとし95歳　とてもとてもそのようには見えません。

お参りが大好きで　見るものすべてに両手を合わせ　合掌されます。

いつもニコニコしてるのですが　その当てのないニコニコが

時には　寂しそうにも見えることがあります。

そんな何気ない時間の流れていた　ある日のお風呂での出来事です。

いつものように　ハツさんの体をシャボンで洗い

いつものように　あたまを洗っていた時です。

指先に　固い塊が　当たります。

この間まではなかった　感触

「ハツさん　痛い？」「ううん・・・」

その腫物は日に日に大きくなっていきました。

「ハツさん痛い？」「ううん・・・」

日に日に大きくなる塊　それがどこから来ているか

知る由もないハツさん

自分の体の異変に気づくこともなく

ニコニコしているその笑顔の向こうは

本当はとても　悲しくて　怖くて　寂しいんでしょう。

だから　必ず返事は同じです。

「ハツさん　痛い？」「ううん」

「私頑張るから」聞こえるはずのないハツさんの心の声を

この時かすかに　聞こえたのは

わたしの　まぼろしだったのでしょうか。