スミエおばあちゃんのあれから

スミエおばあちゃんのあれから

今日は、前回の続きをお話しましょう。


突然シンコおばあちゃんが来なくなって

スミエおばあちゃんの動揺は見ていて切なかったです。


実はスミエおばあちゃん 

シンコおばあちゃんの名前を知らなかったのです。

そう言えば 「あんた」とお互い呼び合って、

どちらも名前を呼んだのを聞いたことはありません。

 

だから、スミエおばあちゃん 

シンコおばあちゃんのこと聞きたくても、

うまく言えないのです。

 

「あの人 ほら、ここに座っとった きれいな人。

どうしたんかね」と

周りの利用者さんに聞いています。


「あ~ん、誰?」「誰か分からんわ」と返ってくるのですが

それも 聞き取れず 同じ質問を繰り返してます。

そのうち 他の利用者さんから

「あら~、しつこい!

同じ事ばっかり聞かんといて!」と怒られてました。


スミエおばあちゃん 何を怒られたか分かりません。

聞こえていないから。

でも、怖い顔されたのは 分かるから

「ごめん ごめん」と言って離れて逃げていきます。


シンコおばあちゃんが居なくなって

スミエおばあちゃんには もうお話する人がいないのです。

いえ、耳の遠い、ほとんど聞こえないおばあちゃんと

話をしてくれる人が居なくなったのです。


私にも「先生、あの人どうした?最近見んね」と聞いてきます。

「そうですね。しばらくお休みされてます」

と答えても 聞き取れず

「そ~か、わからんか」と 違って解釈

ショボンと席に戻ります。


シンコおばあちゃんが居ないことに慣れたある日

利用者さんの塗り絵のカレンダーから

シンコおばあちゃんの途中の塗り絵が出てきました。

それを見つけたスミエおばあちゃん 覚えていたのです。

 

「あら~、あの人のや!あの人来ておいででるんけ?

いつ来ておいでとる?」

とスタッフにしがみつくように聞いてます。


スミエおばあちゃん 朝ご飯の事も覚えてないのに

なんでシンコおばあちゃんの塗り絵を覚えているのですか。

 

それも途中の塗りかけなんですよ。

私達でも気がつかなかったのに。

 

きっと スミエおばあちゃんにとって シンコおばあちゃんは

心の分身だったのでしょうね。


あれから 月日が流れました。

耳が遠く、ほとんど他人と話せないスミエおばあちゃん。

そんなおばあちゃんの今の友達は 古い古いハーモニカです。


リズムにもなっていない 曲にもなっていない旋律を

誰に聞かせるでもなく ただ一人で吹いてます。


スミエおばちゃん 

この古いハーモニカの音色 誰に聞かせているのですか。

 

もしかしたら シンコおばあちゃんが 

もうこの世にいないことを感じて

シンコおばあちゃんに聞かせているのでしょうか。


シンコおばあちゃんも 同じ思いで 空の上から

あなたのハーモニカに合わせて歌ってくれてますよ。

 

だって シンコおばあちゃんとスミエおばあちゃんの

二人だけの時間は 不思議な世界だったのですから。

 

だから お互い居る場所が違っても

きっと通じていますよ。


何よりも 

歩くことが好きだったシンコおばあちゃん

スミエおばあちゃんと一緒に歩くことができて

とっても嬉しそうでした。

 

最後に 二人で歩いたデイの廊下

私は今でもそのうしろ姿を忘れていません。


スミエおばあちゃんの ハーモニカ

すっごく大きな音なんです。

でも、すっごく 切なく聞こえるのは 

私の気のせいでしょうか・・・



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18 Responses to “スミエおばあちゃんのあれから”

  1. トトロ より:

    スミエおばあちゃんとトンコおばあちゃん
    どちらも沢山の思いを抱えていたのでしょうね。
    介護の世界では、身体的な所にいつもケアの重点がおかれてしまいがちですが、介護ママさんのお話は心理的な部分が多く、読ませて頂いていると勉強になります。
    介護職員は、心のレントゲン技師だと、以前聞いた事があります。
    表面ではわからない事もレントゲンを通してみる事で本質に近づく事ができると。
    心のレントゲン技師。
    介護ママさんは、そんな感じがします。
    かなり、個人的な感想ですけど…。

  2. 介護ママ より:

    >トトロさん
    お身体いかがですか。もう仕事は復帰されたのでしょうか。どうぞ、ご無理のないように、体調と相談しながらお過ごしください。心のレントゲン技師都は、分かりやすい表現ですね。まさに介護は、中に潜んでいる異常やワダカマリを見抜けないと、本物とは言えないかもしれませんね。

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