幸せの妄想
キミコさんは、昼間は一人です。
息子さんの帰りは夜の7時過ぎ。
デイケア来ない日は、一人でポツンと留守番しているのです。
きっと、さみしいだろうと思って、キミコさんに聞いてみました。
「息子さんがお帰りまでの間、お一人なんでしょ?
どうされてるんですか?寂しくないですか?」って。
そしたらキミコさん、ニコニコ笑って話してくださいました。
「なんも寂しくないよ。あまり話はせんけど、2階に嫁さんおるから。
あのこはね、ご飯の時は降りてきて一緒に食べるんや。
いつも私のご飯を『おいしい』って言ってくれるからね~」
あれ?お嫁さんなんていないのに。
息子さんは50歳にして独身と聞いていたのに。
後から分かったことです。20年余り前に離婚していたお嫁さんのことでした。
どんな事情で離婚されたかはわかりません。お子さんはいなかったのでしょう。
キミコさんは、息子さんが離婚されたことも、
お嫁さんがでていかれたことも全部忘れたのです。
覚えているのは「おかあさんのご飯、おいしい!」と
喜んで食べているお嫁さんの笑顔だけです。
そして、その笑顔が、一人ぼっちのキミコさんの
心の支えとなり、生きてる希望となっていたのです。
人はこれを「妄想」というのでしょう。
でも、その妄想が幸せの種をまくのであれば、
私は素晴らしいと思います。
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